同じ宿泊施設であることから、一緒くたにされやすい旅館とホテルの仕事。お客様に最高のサービス、快適な時間を提供したいという思いは同じですが、おもてなしに対する考え方に少し違いがあります。また、サービスの内容も違うため、お客様との関わりあい方が変わってきます。
旅館の仕事というと仲居が有名ですが、それだけではありません。ここでは旅館における仕事内容にはどんなものがあるのか、また、ホテルの仕事との違いはどこにあるのかを紹介します。実はお客様との関わりの深さを考えると、ホテルよりも旅館の上の方がやりがいのある仕事と言えるかもしれません。その理由についても詳しくまとめました。
旅館の仕事内容
旅館には、仲居、裏方、フロント、調理係、企画部などの仕事があります。お客様と直接関わり接客を行う仲居やフロント、陰の立役者である裏方、旅館の魅力を生み出す調理係や企画部など、どれも旅館経営には欠かせない大切な仕事です。また、お客様に最良のおもてなしするためには、全員のチームワークも欠かせません。それぞれがどのような業務、サービスを行っているのかをまとめました。
仲居
旅館の入り口でずらりと並び、「いらっしゃいませ」と笑顔でお客様をお迎えする仲居。
テレビドラマでもよく取り上げられる、旅館のイメージを象徴する職種です。
お客様のお出迎えからお見送り、食事の準備やお運び、布団の上げ下げまでお客様の身の回りのお世話やサービスを一手に請け負います。
基本的には着物での仕事になるため、着付けや美しい所作も必要とされる反面、体力勝負な一面もある仕事です。落ち込むようなことがあったとしても常に笑顔でいなければならないため、気持ちを切り替えられる精神力も必要になってくるでしょう。忙しく、大変な仕事ではありますが、お客様から直接感謝の言葉を頂いたり、自分に会いに来てくれるファンができたりと、やりがいを感じられる仕事でもあります。
裏方
お客様と直接関わる仲居とは反対に、見えないところで旅館を支えているのが裏方と言われる仕事です。おもには客室や風呂をはじめ旅館全体の清掃を行います。また、アメニティや備品の補充や修理、照明や電化製品などの点検や修理、庭の手入れなども裏方が行うことが多い業務です。旅館によっては布団の準備も裏方が行う場合があります。表からは分かりづらいですが、いなければ旅館が運営できないほど重要な存在である裏方。埃や髪の毛など小さなごみにも気づけるような、細やかな気配り、目配りが求められます。
フロント
旅館の宿泊予約の受付や管理、チェックイン、チェックアウト業務を請け負うのがフロントです。一番最初にお客様と関わり、最後を締める重要な役割です。手続きをミスしないことはもちろん、丁寧な言葉遣い、温かな接客を徹底しなければなりません。感謝やお褒めの言葉を頂くことが多い反面、クレームを受けることが多いのもフロント。クレーム時にスマートな対応ができるかどうかがフロント係の腕の見せ所。さまざまな場面を想定した接客ロールプレイングを実践しておく必要があります。
調理係
旅館の人気を左右するのが料理のおいしさです。調理係は板長(料理長)を中心に、献立づくりから、食材の仕入れや管理、調理までを担当します。一般的には和食を提供している旅館が多いですが、大きな旅館になると朝食では和洋折衷のバイキングを実施していたり、婚礼を執り行う場合はお客様に合わせた和洋折衷の婚礼料理を提供する場合もあります。また、宿泊の場合は部屋で食事を取ることが多いため、食べる時間や提供までのタイミングを考えた調理の管理も大切になってきます。
企画部
旅館によっては季節ごとにさまざまなイベントを実施します。料理にスポットをあてたイベントや、周辺の観光を絡めたキャンペーンなどがそれにあたります。そのようなイベントやキャンペーン、プロモーションを企画するのが企画部です。また、婚礼を行う旅館であれば、専属のブライダル係が用意されている場合もあります。会場見学や料理の試食会などのイベント企画から、新郎新婦との打ち合わせ、式の準備、当日のサポートまでを担当します。
旅館とホテルの仕事の違い
旅館とホテルの仕事にはどのような違いがあるのでしょうか。建物が洋風か和風かという違いだけではなく、スタッフとお客様の接し方や頻度にも違いがあります。ただし、どちらもお客様に快適な時間を提供するという思いは同じ。その上で、旅館とホテルでの仕事の違いを比べてみました。
一日に顔を合わせるお客様の数
ほとんどの旅館には温泉があり、お客様は浴衣を着て館内を散策したり、ロビーでくつろいだりと自由に過ごします。フロントのスタッフと会話をしたり、館内ですれ違う際には挨拶をしあったりと、お客様とスタッフが気軽に会話を交わすような雰囲気が旅館には漂っています。また、旅館では部屋食が基本です。仲居が部屋まで食事届け、料理の説明を行うため、ここでもお客様と顔を合わせ、会話をします。
一方でホテルの場合は、部屋には防音対策がされている、ドアの鍵もセキュリティの高いものが使われているなど、お客様のプライバシーを守ることが大前提とされています。ビジネスで利用しているお客様も多く、館内を散策してくつろぐというお客様は少ないかもしれません。また、部屋食という仕組みもなく、必要な場合以外、スタッフが客室を訪れるということはありません。
宿泊者の人数が同じだった場合で考えると、旅館の方が一日に顔を合わせるお客様の数が多いと言えるでしょう。
お客様との接点の頻度と内容
旅館もホテルもフロントでのチェックイン、チェックアウトは同じですが、その後のお客様との関わり方が違ってきます。
旅館の場合は、最初から最後までお客様とスタッフが接する頻度が高くなります。お客様の到着後、客室へ案内した際にはその場でお茶を淹れておもてなしし、さらに部屋食の準備や提供、片付け、布団の準備など、仲居が客室に訪れるタイミングが非常に多いのが特徴です。
一方ホテルの場合は、ベルスタッフがお客様を客室まで案内しますが、その後スタッフが部屋に入ることは基本的にはありません。
サービスが世界基準か日本の伝統か
お客様との関わりの違いは、サービスの指針が「日本の伝統的なおもてなし」なのか、「世界基準のサービス」なのかによる違いだと言えます。細やかな気配りや心配りで、お客様に寄り添ったサービスを提供するのが日本の伝統的なおもてなし。人間的な温かみのある接客サービスです。それに対し、おもてなしは大事にしつつもお客様のプライバシーを守ることが大前提とされているのがホテルのサービス。お客様とは節度ある距離を保ちつつ、安全性と快適さを提供しています。サービスの形は違っても、どちらも素晴らしい時間を過ごせる場所であることに違いはありません。
旅館の仕事のやりがいは?
旅館で仕事をしているとたくさんのお客様と深く関わることができます。旅館自体の歴史がある場合が多いため、毎年必ず利用されるお客様や、30年来のリピーターのお客様、父や母、祖母や祖父が好きだったなどの理由で通うお客様など、思い出とともに旅館に足を運ぶ人も少なくありません。そういったお客様と深く付き合えたり、人生の折に触れたり、温かな関係性を築けることは旅館の仕事ならではの魅力。また、仲居の場合は着物で仕事をすることになるため、着付けの技術や、洗練された和の所作が身に付きます。
まとめ
旅館には、仲居、裏方、フロント、調理係、企画部などの仕事があります。比較されることの多い旅館とホテルですが、どちらもお客様へのおもてなしを第一に考えている点は同じ。よりお客様との接点が多く、お客様に寄り添ったサービスを提供するのが旅館と言えます。仕事のなかで培われたお客様との絆は、旅館で働く上での大きなやりがいとなるはずです。