ホテルのフロント業務は、ホテルの顔という華々しいイメージもありますが、お客様と最初に顔を合わせ、ホテル自体のイメージを左右する、重い責任が伴う仕事でもあります。
しかし外からでは、ホテルマンの大変さ、ホテルフロントの仕事の大変さは分かりません。実際に、ホテルフロントの業務経験者は、どんなことに辛さを覚え、どんな時に辞めたいと思ったり、転職したいと思ったりするのでしょうか?
この記事では、ホテルフロントを辞めたくなってしまう4つの理由と、実際に辞める、もしくは辞めたいと思ったり、転職したいと思った時に、どんなことを考え、またどのようなリスクがあり、どんな行動をとればいいのかをまとめました。
ホテルフロントを辞めたい4つの理由
1.勤務体制、給料などの条件面
ホテルのフロント業務は、シフト制を敷いているところがほとんどであり、サービス業なので、平日・休日問わず、出勤することになります。5月のゴールデンウィークや年末年始などの大型連休中も、ホテル業界にとっては書き入れ時であるため、休みは取りづらくなります。さらに宿泊業なので、夜勤もあります。一般的なサラリーマンのように、「毎日決まった時間に起床・出社し、決まった時間に帰宅・就寝する」というような、規則正しい生活は送れないため、生活リズムは乱れます。
また、ホテルマンを辞めたいと思う理由に、給与面を挙げる人もいます。ホテルのフロント業務の月収相場は、23万円ほどと言われており、主な産業別での賃金において、宿泊業は低いレベルにあるという統計も出ています。(※1)さらにホテルフロントの給与は、ホテルの業績にも左右される場合が多いため、閑散期と繁忙期、通常期など、通年での給与額に変動があることでも知られています。
勤務体制のハードさと給与の低さが理由で、ホテルフロントを辞めたいと思う人は、やはり多いです。
※1 出典;厚生労働省『平成29年賃金構造基本統計調査』p14
2.接客に対する会社の方針との違い
ホテルのフロント業務というのは、単純な精算業務だけではありません。宿泊客の応対はもちろん、予約や問い合わせなどの電話応対、クレーム対応、併設レストランの予約管理やモーニングコールに加え、時には観光案内なども求められます。そして、その全ての業務において、高度なレベルの接客が求められるのが、ホテルフロントという仕事です。
しかし会社の方針により、コンシェルジュが観光案内や旅行のプランニングを専任するホテルもありますし、シティホテルやビジネスホテルでは、清掃業務をホテルフロントが兼ねる場合もあります。そして、具体的にどのような仕事を任されるかは、実際にその会社に入ってみないと分からない部分でもあります。ですので、接客全般をやりたくて、ホテルフロントという仕事を選んだのに、精算業務や電話応対などの限られた接客業務しかやらせてもらえない、という場合もあります。
接客を極めたいから、ホテルフロントという職業を選んだのに、今の会社ではやりたいことができない…」自分がやりたい仕事の理想像と、会社の方針が食い違うことも、その会社でのホテルフロントを辞めたくなる大きな理由の一つです。
3.人間関係
どの業界においても、大きな問題ではありますが、ホテルフロントの仕事にも、やはり人間関係の問題があります。中でも、ホテルフロントの場合の大きな問題点は、アルバイトの採用が比較的少ない会社が多いので「人の移動が少ないこと」です。そのため、「長期に渡って、同じ人たちと仕事をする」ことが多くなります。同僚が気の合う人たちで、チームとして良い雰囲気で仕事ができるなら良いですが、その逆の場合、長い間辛い思いをしながら働かなければいけなくなってしまいます。
十人十色のお客様に対して、高レベルの接客が求められる中、当然、クレーム対応もホテルフロントが対応にあたる重要な仕事になってきます。そして、そのクレーム対応においては、基本的にホテルマンはお客様の要望に対してNOとは言えない立場ですので、精神的な負荷が非常に高いです。精神的に負荷が高いお客様対応だけでなく、そこにホテル内部での人間関係においても、同様かそれ以上の精神的負荷がかかるとしたら・・・
ホテルフロントとして、違う会社で働きたいと思う重要な決め手になることは、想像に難くありません。
3.今後のキャリアが不安
一見、華やかに見えるホテル業界ですが、内情は体育会系の職場も多いです。
特に歴史あるホテルでは、学歴での評価が根強く残るなど、昔からのしきたりが残っているところも多く、大卒の正社員入社でなければ、出世コースに乗れない会社もあります。
さらに古い会社であればあるほど、未だに年功序列での評価が下されていて、能力や仕事量にかかわらず、勤続年数が低いことで給与が低く抑えられたり、上の役割を任せてもらえないなどの問題があります。
どれだけ頑張って会社に貢献したとしても、その努力が正当に評価されず、ただ長く会社にいる人が順番に出世していき、高い給与と責任ある役職が与えられるとしたら。
より正当な評価を求め、別の会社で働くことを考えることは、自然な選択だと言えるでしょう。
辞めたいと思った時に考えたい3つのこと
現在の仕事を辞めたいと思ったからといって、すぐさま辞表を提出するのは、あまりにリスクが高く、早まった軽率な行動です。
「後悔先に立たず」ということわざがあるように、辞めた後で「やっぱり辞めなきゃよかった」と思ったとしても、取り返しがつかなくなってしまいます。
では、そうならないためには、辞める前にはどんなことを考え、どんなリスクを考慮し、どんな準備をすればいいのでしょうか?
1.好きになれるか考えよう
仕事を辞めたいと感じるのは、誰にでもあることです。
人によっては、30年40年と同じ仕事を続けている人もいますが、そういう人にだって「辞めたい」と思った経験は、必ずあるはずです。
辞める決断をする前に、もう一度冷静になり、立ち止まって、「自分はなぜ今の会社を辞めたいのか?」について考えてみましょう。
もしかしたら、今の会社を好きになれる何かが隠れているかもしれません。
例えば、あなたが人間関係で悩んでいるとしたら。
職場の人間関係というのは、辞める決断をする大きな理由にもなりますが、同時に「辞めたことを後悔する大きな理由」にもなります。
それは、自分とそりが合わない人間というのは、大抵どの職場においてもいるからです。
全員が全員気の合う仲間で、お互いに高め合い、助け合い、良きチームとして仕事に取り組んでいける、という状態も無いとは断言できませんが、やはり可能性は低いと言わざるを得ないでしょう。
そのため、「理想の人間関係」だけを追い求めて、辞める決断をするのは、非常にリスクが高いです。
例えば、人間関係の悩みが転職を考えている原因であるならば、「お互いに一度腹を割って、話し合うことはできないだろうか?」「相手は変えられないにしても、自分が努力できる余地はないだろうか?」と、再考してみるといいでしょう。
もちろん、今まで表面的に付き合ってた人物と深い話を交わすことや、本音で話し合うことは、簡単なことではありません。
しかし自分の努力次第で、人間関係を改善でき、今の職場をもっと好きになることができたら、その経験はあなたにとって一生モノの価値ある体験となるでしょう。
このように、辞めるという決断を下す前に、「問題を改善するために、自分にできることは本当にないのか?」「辞めるという決断が、本当の解決策になるのか?」ということを、いま一度考えてみましょう。
2.やめる前にリスクを考える
一度立ち止まって、自分にできることや今の職場を好きになれるのかどうか考え、それでも辞めたいと思ったら。
この時点でもまだ、辞める決断をするのは早計です。
辞める前にもう一つだけ、考えておくべきことがあります。
それは「辞めた際のリスク」です。
もし勢いだけで辞めてしまったら、再就職先がすぐには見つからず、当座の生活に苦しむことになるかもしれません。
再就職先がなかなか見つからず、どうしようもない不安に押しつぶされそうになるかもしれません。
急いで、十分に吟味できずに決めてしまった再就職先は、前の職場よりも待遇が悪くなってしまうかもしれません。
また仕事を辞めるというのは、大きな決断です。
家族や交際相手など、深い関係にある人たちとの関係に、好ましくない影響が出るかもしれません。
さらに健康保険や年金、住民税などは一年前の給与に基づいて、請求がきます。
勢いだけで辞めてしまうと、無職で収入が無いにもかかわらず、仕事をしていた時と変わらない額の請求書が来てしまい、さらに生活が困窮してしまうかもしれません。
一言に仕事を辞めると言っても、実際に辞めるとなると、これだけのリスクがあります。
今の職場を好きになれるか考え直し、自分にとっては辞めることが最善だと思ったとしても、辞める前に、もう一度これらのリスクについて、しっかり考えましょう。
3.やめると決断したらやめる前に準備が必要
今の職場を好きになれる余地がなく、辞めるリスクも一通り考慮し、それでも辞めたいと思ったとしても、辞表を出す前に、しっかりとした準備が必要です。
せっかく前の段階で、辞めるリスクを考えたわけですので、それに対するリスクヘッジが必要不可欠です。
転職先が見つからず、不安に駆られたり、当座の生活に困ることがないように、年金や税金の支払い額についても考慮の上で、最低限度の生活資金は用意しておかなければなりません。
仕事を辞めることで、家族や交際相手などの大切な人たちとの人間関係にヒビが入らないよう、事後ではなく事前に相談しておくことも必要です。
せっかく辞める際のリスクを考えたのですから、辞める前に、しっかりとそのリスクを避ける「準備」をしておきましょう。
まとめ
この記事を読んでいる方は、ホテルフロントの仕事に魅力を感じている方だと思います。
ホテルというのは、本当にさまざまなお客様が利用されるので、その出会いは一期一会です。
特別な旅行に利用され、素敵な思い出作りの手助けができたり、宿泊して満足して頂いた様子を見ると、格別な喜びとともに、心からやりがいを感じられる仕事でもあります。
あなたがもし、今まで懸命にホテルフロントの仕事を続けてきたのなら、その経験を活かして、同じ宿泊業での転職を考えてみてはいかがでしょうか。
同じ宿泊業であれば、違う会社であっても、違った形で自分の力を出せるかもしれませんし、違った評価をもらえるかもしません。
いずれにせよ、早まることはありません。
辞めたいと思ったら、すぐ辞めるのではなく、辞める前にもう一度冷静に考え直し、リスクを見つめ、しっかりとした準備をし、後悔のない職業選択を、そして後悔のない人生を送っていきましょう。